Far-off Voice
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8.文化祭、咲本くんのほんと(1)
-2-A教室-
「おら、席につけー」
「今日は二週間後の文化祭について話し合いするぞー」
5限目の開始を知らせる鐘が鳴り、担任の横浦先生は教室に入ってくるやいなや、窓際の椅子に座る。
でも、これが平常運転で、安定のやる気のなさだと思う。
文化祭・・・そっか、もうそんな時期か。
去年は一般参加者の案内係だったから全然回れなかったんだよね。
今年は…く、クラスTシャツ着てカフェとか出来たらいいなぁ。
”文化祭”という言葉を聞いただけでワクワクしてくる。
「じゃあ、さっそく堀川!司会進行その他諸々…後は頼んだ。」
先生の言葉に、僕の前に座っている南くんが席を立つ。
南くんが文実なら話し合いもスムーズにまとまりそうだ。
「先生、丸投げですか」
「当たり前だろ。よろしくな文化祭実行委員!」
「はいはい・・・分かりましたよ。まず始めに・・・あ、先生。」
「ん~?」
「咲本くんがいないんですけど。」
南くんが発した”咲本”という名前に、身体が強張る。
「いっつもいねーだろ、あいつは」
「休みの人はともかく…咲本くんは学校に来てるので呼んだ方がいいんじゃないですか?」
さすが南くん・・・優しい。
僕は出来ればお会いしたくないんだけど・・・でも、咲本くんだってきっと、文化祭楽しみたいよね。
「あー・・・そうだなぁ・・・じゃあ、クラス委員!朝比奈!」
「朝比奈くん、今日は風邪で休みですよ。朝、先生が言ったんじゃないですか。」
「んあー、そうだったな…そしたら、もう一人の・・・」
「古沢さんは女子だからダメでしょ!危険!」
古沢さんと仲の良い女子がすかさず反応する。
危険・・・なのは、男子も同じかもしれない。
僕は昨日のことを思い出して身震いした。
「危険っておまえら思春期か!・・・じゃあ、その後ろ、三浦!」
名前を呼ばれた気がして顔を上げると、教室中の視線が自分に集まっていることに気付いた。
「えっ・・・あの・・・・・・」
状況を理解して慌てふためく。
「先生、俺が行きます」
「堀川はダメだ、おまえがいなきゃ進まん。俺が楽できん。」
「楽って・・・」
南くんが神に見えた。
でも、案の定暴君はそれを許さない。
「さあ、三浦!咲本を捕獲してこい!」
「あ・・・はい。」
もう、引き受けざるを得なかった・・・
捕獲・・・捕獲って・・・・・・
僕は、心配そうな南くんの視線を背に感じながら宛もないまま教室を出た。
咲本くんがいそうな場所なんて見当もつかないけど、とりあえず保健室から順番に回ってみることにした。