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​犬神憑き

捌.闇に堕ちた者

-四ツゑ森奥地にて-


琥珀「どこへ行くつもりだ?…犬神よ」

入江「あんた…だれ?…妖怪?」

琥珀「ぬ…人間の方か。わしは空狐の琥珀じゃ。たしか…入江、といったなおぬし。」

入江「そうだけど…化け狐が俺になんか用?」

琥珀「ばっ…!?誰が化け狐じゃ!阿呆!この高貴な琥珀様に向こうて礼儀のなっとらん…
   これだから人の子は好かんのじゃ……

   ええい!煩わしや!犬神を出せ小僧!ぬしじゃ話にもならぬ!」

入江「犬神は眠ってる…しばらくは起きない」

琥珀「ほう…縛霊の紋(ばくりょうのもん)か……ぬし…犬神を操っておるな?」

入江「だったらなんだよ?…あんた、邪魔するつもりなら呪い殺すよ?」

琥珀「あはははは!面白いことを言う!わしを呪い殺す、だと?
   草不可避というやつじゃな!知っておるか?ねっとようごというものじゃ!」

入江「……死ね」

琥珀「…っ!?」

入江「ちっ…外したか…」

琥珀「詠唱なしだと!?貴様…心まで闇に染まっておったか!」

入江「もう、何もかも…なくなればいいんだ!!!!!」

琥珀「まずいのぅ…カゲ、何をしておるのじゃ…はよ来い!
   闇に堕ちた人間ほど厄介なものはない。

   生きたまま動きを封じねばならぬのは骨が折れるぞ…」



琥珀は詠唱なしに飛んでくる入江の呪術を受け流しながら、上手く時間を稼ぐ方法を考えた。

喰い殺すことは容易…しかし、生きたままとなると難儀じゃ…

「ぬぅ!…ほんっに人の姿は動きにくいのぅ!!」

着物の裾を持ち、下駄を脱ぎ捨てる。

木々の合間を縫うように駆け抜け、入江の死角を狙った。

考えてはみたものの、生け捕りなどしたことのない琥珀の頭に妙案が浮かぶはずもなく…

半殺しまでならなんとかなるかもしれない、と…怒りを露わに本来の姿に变化した。

ざあっと鋭い風が吹き荒れ、人の背丈の3倍を越す青みがかった白い狐が姿を現す。


「私を怒らせたこと…後悔させてやろう」



琥珀は静かに呟くと、鋭く光る眼光で入江を睨みつけた。




 

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