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​4.狐白とニコルと夕暮れの丘

狐白とニコルと夕暮れの丘 - 終夜、九汰
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夕暮れ落ちる丘の上。

大きな百合の花束が添えられた石の前に、いつもひとりぼっちで泣いている女の子がいた。

僕はいつも、その子が泣いているのをそっと木陰から見ているだけだったけど、
2日経っても、3日経っても同じ場所で、同じように泣いているその子の笑った顔が見てみたくなって…
4日目の今日、話しかけてみることにした。


狐白:ねえ、なんで泣いてるの?

ニコル:っく…うぅ…っ…お、お母さんが……
おかあさんが死んじゃったの…っく…ぅえっ…

狐白:そうなんだ…でも、泣いてばっかりだとお母さんが心配しちゃうよ?

ニコル:いないもん…もう会えないんだもん……

狐白:う~ん。ねえ、キミは亡くなった命がどこへ行くか知ってる?

ニコル:知らない…

狐白:大切な人の"心の中"だよ。

ニコル:こころの…なか…?

狐白:そう。目には見えなくても、いつもそばにいるんだ。
    寂しくて泣いていないかな、辛い想いをしていないかなって。

ニコル:ほんとう…?

狐白:うん、ほんとだよ♪

ニコル:…じゃあ、私もう泣かないっ!

狐白:ふふ、いい子だね。そうだ、キミの名前は?

ニコル:ニコル…あなたは?

狐白:僕は狐白!ニコルってかわいい名前だね♪

ニコル:"狐白"……あ、ありがとう!!お母さんがつけてくれた大切な名前なの。

狐白:そっか♪じゃあ、僕もキミの名前を大切にする!

ニコル:へ?

狐白:キミのお母さんがキミを想ってつけた"ニコル"って名前、僕も大切にするよ!
    ……あ、僕そろそろ行かなきゃ!またね!ニコル!

ニコル:えっ!?…待って!狐白っっ!

狐白:ん?

ニコル:あ、あの…これっ…!

狐白:なーに?これ…びっくり箱?

ニコル:んーん、オルゴール。お母さんがくれたの…これね、お母さんの大好きな曲なんだって!

狐白:わぁ…すごく綺麗な音色だね!

ニコル:それ、孤白にあげる。

狐白:え?僕に…?でも、ダメだよ…これはキミの大切な物だろう?

ニコル:いいの…だって私たちまた会えるでしょ?

狐白:ふふ、そうだね。キミに会うときは必ず持ってくるよ!

ニコル:うん!

狐白:じゃあニコル…また明日、夕暮れ時のこの丘で!


返事を待たずに僕は走り出した。

 

赤から紫色に染まってゆく丘の上を…街ではなく、森のほうへ。


背中に向かって「ありがとう!」と叫ぶニコルの顔が笑っているような気がしたけど、僕は振り返らなかった。
 

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