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​犬神憑き

​拾壱.犬神の記憶

※「」以外は入江のセリフ



…っ……!突然目が眩んで…

ここは……相馬神社の境内か…?


 犬神「お、おう!入江…」


犬神…?なんで…


 犬神「た、た…誕生日…おめ…お…おめで…と…ま、まーたひとつ歳とったらしいじゃねーか!!

    がっはっはっは…は……」
 

 

は?誕生日…?

俺の誕生日は4月なんだけど……今、10月…


カガリ「馬鹿者、一言多いんだ犬神おまえは。」


(背後から声がして慌てて振り向く)

カガリ…!?ちょっと!

え…声が、出ない……!?

なにこれ幻術…?あの祓い屋が見せてるっていうわけ?

くそっ…


 犬神「だってよー…まともに話したことないんだぜ?俺が表にいるときあいつは眠ってるしよ…

    妖力があるからってあいつの見てるもんが全部見えるわけじゃねぇし…

    いきなり誕生日おめでとうはハードルたけぇわ……」

カガリ「しかし、話したいのだろう?」

 犬神「…そりゃまあ……でも、話すっつっても、

    あいつと俺の意識が切り替わるほんの数秒の間しかないわけで……

    なんて言ったらいいのか…」

カガリ「誕生日おめでとう」

 犬神「ぐ………だいたい憎んでるやつから誕生日なんて祝われても嬉しくねぇんじゃ…」

カガリ「どう思われるかではなく、己がどう思っているか、だ。

    それをまず相手に伝えなければ、何も変わらないぞ。」

 犬神「あー…まあ、そうだよな。わかった…もっかい頼む!」

カガリ「…はい、入江と犬神の意識が入れ替わる!」

 犬神「あ…っと、その…たん、誕生日おめで…とう……俺は…」

カガリ「はいそこまで。もっと簡潔に!どもらない!」

 犬神「うぇぇ……」


なに…これ?


 影近『それはカガリさんの記憶です。』


祓い屋…!あんた!戻せよ!こんなん見せて何になるわけ?…っ…声……

 


 影近『まずは犬神さんの気持ちを知ってください。今の貴方に必要なことです。

    話はそれからにしましょう。』
 

 

は!?ちょっと…!

くっ…呪術も封じられてる……


 犬神「だーっ!!また失敗しちまったー!」


……っ!?


カガリ「なんだ?また言えなかったのか?」

 犬神「おー……」

カガリ「一応聞いておくが、今度はなんと言ったんだ?」

 犬神「『たん…単細胞はおめでたいな!』って…」

カガリ「酷いにも程があるな……」

カガリ「もっと気楽に構えられぬのか?気負いすぎだぞ。」

 犬神「友達じゃねーんだからよ…無理だろそんなん。」

カガリ「友人でもないのにヒトを単細胞呼ばわりする方が不躾だと思うが……」

 

 

単細胞…たしかに言われた覚えはあるただの嫌がらせだと思ってたけど……


カガリ「おい、おぬし…犬神憑きだな?」


…!?場面が変わった…?


 犬神「…っく………はぁ…っ…ぐ…ぅ…………だ、…ったらなんだ?」

カガリ「犬の方か…おぬし、宿主を喰らう気か?」

 犬神「くだらんことを…!喰らう気があればとうの昔に…喰らっておるわ!放っ…ておけ…!」

カガリ「随分と苦しそうではないか。見るに、補食衝動であろうが…初めてでは、ないな?」

 犬神「……じき、おさまる……っ!!」

カガリ「そうか…それではな、犬公」

 

 

これは…カガリと犬神の出会った頃…?
 

 

カガリ「ふむ……気が変わった。これをやろう。」

 犬神「…………?」

カガリ「私の妖力を混ぜた薬だ。これで少しは衝動が抑えられるはずだ。」

 犬神「余計な真似を…!……何が望みだ?」

カガリ「望みなどない。飲むも捨てるもおぬし次第だ。

    なぁに、甲妖の戯れに過ぎぬこと。案ずるなよ、犬公」

 犬神「チッ…」



また…っ!場面が…



 犬神「別に…俺はあいつの為にこれを飲むわけじゃねえ…」


カガリ「相手はか弱き人の子。一思いに喰らえばよいものを。

    何故、宿主…入江、といったか。そやつを生かしておるのだ?」


 犬神「…同じだから、だ。俺とあいつが…。確かに、俺をこんな風にしたのはあいつら一族だ。

    でも、それはあいつ…入江の意思じゃねえ。俺にだってそんくらいわかる。

    入江も、あの一族に縛られてんだ。…だから、俺はあいつを見捨てることが出来ねえ。」


カガリ「しかし、入江とやらもいずれはそれに慣れる。

    今はお主と同じ、縛られる側であれど、いつか必ず己の血に目醒める日が来る。

    それが、呪術を生業とする犬神憑きの運命よ。」


 犬神「止めてみせる。血筋なんて関係ねえ…!

    そんなしがらみ俺が全部取っ払って、あいつを自由にしてやる!!」


カガリ「ずいぶん好いておるのだな。餌付けでもされたか?」


 犬神「ちげぇ…あいつは…無口で無愛想で何考えてっかわかんねえ奴だけどよ、

    時々伝わってくるんだ。感情が、波になって、こう…ぐわぁあって。」


カガリ「ほう…」


 犬神「…たったの2つだけなんだ。あいつから流れ込んでくる感情は、

    行き場をなくした憎しみと、何にも埋めることの出来ねえ孤独。

    …そんなの、あんまりだろ。」

カガリ「ほんに人が良いというか、犬が良いというか…まあ、気持ちはわからぬでもない。

    おぬしが何を考えているのか知らんが、これはそう容易いことではないぞ。

    自由を求めるのは良いが、自由の意味を履き違えぬようにな。」


 犬神「ああ…わかってる。あんたを巻き込む気もねえから安心してくれ。」


カガリ「当たり前だ。私は神事で忙しいからな。」


 犬神「妖かしのくせによく言う。」


カガリ「…しかし、困りごとがあればいつでもここへ来るといい。暇であれば手を貸そう。」


 犬神「そりゃあ頼もしいや。甲妖さん♪」



なんで…


伸ばしかけた手を阻むように足元から光が溢れだし、犬神の姿が見えなくなっていく。

僕は拳を握り締めると、ぐるぐると渦巻く感情を抑えこみながら瞬時に結界を張り巡らせた

 

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