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2.絶つ

遠くへ…消えてしまいたいと願った。

自分を偽って息をするのにもう疲れたから。

庭に咲いた椿が僕を見つめたまま、自ら命を絶った…

紅い花弁はひとつも散ることなく美しいままで

願うだけでは何も変わらないと言われてるような気がした。


最初で最期の「ずる休み」をした。

この非常階段が空の向こうへ続いていれば…

そうすれば何の躊躇いもなく行くことが出来るのに。



ミニチュアのような景色を見下ろしても恐怖を感じなかった。

昔見たドラマのように、靴を脱いで揃えて置いた。

遺書はない。残す言葉も、相手もいないから。

冬の空はどこまでも高く澄んでいて…

「今なら僕も飛べる」と思った。

爪先で立って、両腕を広げて、重心を前へ…

後は、委ねるだけ。


 

イメージは完璧で、椿のように潔く。


たとえ今、目に映る空がどんなに綺麗でも、脳裏にキミの笑顔が浮かんでも、

この世界に未練なんてないと思っていた。


だから動揺を隠せなかった。

頬を伝う冷たい涙に。


何を思っても今更だ。

僕は消えることにした、それは変わらないんだ。



振り切るように踏み出した先は一瞬。



結局僕は逃げるように紅い花弁を散らせ、命を絶った。

命絶つ花 - 終夜 瑛斗
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