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​犬神憑き

​伍.共喰いの痕

不器用で繊細な友人のことがどうしても気がかりで、

あるとき私は久方ぶりに俗界へと社の鳥居を跨いだ。

四ツゑ森を抜け、荒廃した地を踏む。

妖かしも寄り付かぬという、犬神憑きの一族が住まう屋敷を訪れたのはそれが初めてだった。

枯れ果てた大地、絶えず降り注ぐ砂塵…

 

とても人が暮らす環境には思えない有り様にありもせぬ心が痛んだ。

そこで私が目にしたのは、喰い散らかされた肉塊…

 

おそらく人だったであろうそれは…見るも無残なものだった。

全滅、という言葉が浮かんでは消える。

 

血生臭い屋敷の中に、命あるものはいなかった。


…私は確信していた。

全ては犬神の暴走である、と。

あるいは入江の…


だとすれば、止められるのは私しかいない。


しかし、私の力だけでは犬神と入江を消滅させてしまうやもしれぬ…

それだけは避けねばならないと思った。



炉梦「……それで俺を呼び出した、と?」


それまで黙って話に耳を傾けていた炉梦が口を開いた。

 

面倒そうに、何か思案しているような面持ちで顎を触っている。


カガリ「ああ、察しの通りだ。情報屋のそなたなら何か良い策を持っているやもしれぬ、とな。」

炉梦「ふっ…あいにく俺自身にゃ何の力もねーよ。

   だが…そういう話が好きそうな奴になら、心あたりがある。」


炉梦はそう言ってニヤリと口角を釣り上げた。

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