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​犬神憑き

玖.呪術と法術

 影近「これはまた派手にやりましたね…」

 琥珀「遅いぞたわけっ!」

 影近「すみません…大きな琥珀さんはお久しぶりですね。」

 琥珀「ああ…人の姿は動きづらくてな。
   まさか、かような小童相手に私の美しい姿を見せる羽目になろうとは…」

 影近「お怪我はありませんか?」

 琥珀「ふんっ…格下相手に私が怪我をするわけないだろう。

    ただ、美しい毛並みが乱れているのはまことに不愉快だ。」

 影近「ああ、いえ。琥珀さんではなくて入江さんです。」

 琥珀「なっ…!?」

カガリ「息はある。狐、すまない…手間をかけたな。」

 


(琥珀、人間の姿に戻る)



 琥珀「気にするな甲妖。生け捕りは初めてじゃったが、

    可能な限り殺めぬ努力はしたつもりじゃ。」

 影近「それで、どうです?」

 琥珀「ああ…闇堕ちしておる、な。」

カガリ「堕ち神…」

 琥珀「いや、闇に溶けておるのは入江のほうじゃ。詠唱なしで呪術を放って来おった。」

 影近「やはりそうでしたか。」

カガリ「入江…まさか、そんな。私がもっと目をかけてやっていれば…」

 琥珀「そう気に病むな。…甲妖、ぬし法術を扱えるな?」

カガリ「ああ…主の真似事程度であれば可能だ。」

 琥珀「犬神は縛霊の紋で操られておる。今のうちに解いてやれ。」

カガリ「そうか…分かった。」


(横たわる入江に近付き錫杖を翳す。光が溢れてくる。)


カガリ「神力自在なることは
    測量すべきことぞなき
    不思議の徳をあつめたり
    無上尊を帰命せ…くっ!?」


 入江「余計なことしないでくれる?…カガリ」

 琥珀「いかん!!甲妖伏せろ!!!!!」

カガリ「…!?」



無数の黒い閃光がカガリ目掛けて豪速で飛ぶ。

琥珀はさせるものかと地を蹴った。

甲妖といえど詠唱中は無防備だ。

突如、金属を打ち付けるような鋭い音が響き、次いで目が眩む程の光が弾けた。

炉梦が影近の名を叫ぶのが遠く聴こえる。

琥珀は爆風に飛ばされそうになりながら光の向こうに目を凝らし、叫んだ。

 

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