top of page

​4.三浦くんはヒーロー

結果から言うと、試合は圧勝だった。

南くんの戦略、判断力、滝くんのディフェンス、フォローのおかげで動きやすかったものの、
みんなについていくのが精一杯で俺はほとんど何も出来なかった。

中学時代を思い出して苦い想いが込み上げてくる。

一人落胆していると、向こうから走ってきた南くんが俺の横腹にタックルして、
大はしゃぎで髪をわしゃわしゃっと撫でた。


 南「三浦おまえすっげぇのな!なんだよあの距離からシュートって!」

瑛斗「た、たまたまだよ・・・中学の時バスケ部だったけど、万年補欠だったし。」


横腹を押さえて頬を掻く。

ただ俺は南くんから回ってきたボールをがむしゃらに投げただけだ・・・

中学の時、コーチに「おまえは判断力がない」と指摘された。
自分なりに努力はしたけど、その努力が報われることはなく、
「シュートだけは!」と必死に練習した。

結局、レギュラー入りする夢は叶わなかったけど、今こうして役に立っていることが素直に嬉しい。


 南「謙遜すんなって!一度や二度じゃないってとこ見せられたら
   そりゃもう三浦の実力だって思うよ!やっぱ俺が見込んだだけあるわ!!」

瑛斗「あ、はは・・・ありがとう。」


 

こういうときってどうすればいいんだっけ・・・褒められるって慣れなさすぎてぎこちない笑顔しか作れなかった。


笠原「南のチーム強すぎ!チートだチート!」

 南「うっせぇよ負け犬wwこれは俺の実力と人を見る目がだな・・・」


負けて悔しがる笠原くんとじゃれて遊ぶ南くん。
本当に仲良しだなぁ・・・


 滝「おつかれ。」


二人を見てほのぼのしていると、いつの間にか隣に滝くんが立っていた。


瑛斗「あ・・・おつかれさまです。」

 滝「・・・。」


滝くんは常に無口で無表情だ。
おまけに背が高いからなかなか威圧感がある・・・

ど、どうしよう・・・せっかく隣に来てくれたんだし、何か、何か話さなきゃ・・・

話す話題が見つからなくて変な汗が背を伝う・・・


瑛斗「あ、あの!身長いくつですか・・・!!?」

ようやく振り絞った話題がこれ。滝くんは俺を感情の読めない目でチラリと一瞥した。

ま、ままままずかったかな・・・・・・


 滝「186・・・」

瑛斗「そ、そうなんだ!!高いねー・・・」

 滝「・・・・・・」


会話終了・・・め、めげないぞ!


瑛斗「た、滝くんってみな・・・堀川くんと仲良いよね!!」

 滝「・・・ああ。」


つ、続かない・・・
南くん助けてぇええええええええええええ!!


笠原くんとおいかけっこしている南くんに救済の念をおくると、
それに気付いたかのようにかなりいいタイミングで南くんがこちらを振り返った。


 南「おーい!ジュース買いに行こうぜ!」


「もちろんこいつらのおごりで」と無邪気に笑って付け足す。滝くんは相変わらず無表情のまま。

た、助かった・・・。


 滝「・・・行くか。」

瑛斗「え、あ、うん・・・でもいいのかな?俺まで・・・」

 滝「綺麗なフォームだったから。」

瑛斗「ん?フォーム・・・?」

 滝「シュート」


噛み合わない疑問で言葉の意味を理解するのが遅れた。・・・けど、これはたぶん褒められてる…のかな?


瑛斗「あ・・・・・・」

 滝「部活は?」

瑛斗「えと・・・今は何も。」

 滝「バスケ部はお前を歓迎する。」

瑛斗「へ?」


何を言ってるんだこの人は!?

見てたよね?俺のプレイ見てたよね?

バスケ部ってそんなに部員足りないの?


瑛斗「俺、チームプレイ苦手だから・・・」

 滝「・・・・・・」

瑛斗「さ、誘ってもらえるのはすごく嬉しいんだけど!!」


購買までの廊下を歩く俺と滝くんの間に気まずい沈黙が流れる。

気を悪くさせてしまったんだろうか・・・


そうだよね・・・バスケ部エースの滝くんがせっかく誘ってくれたのに・・・


それっきり滝くんが口を開くことはなく、
俺もなんと話しかけていいものかわからないまま昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響く。


 南「滝~、俺ら今日から掃除当番図書室だろ?行こーぜ。」

 滝「ああ。」

 南「み・う・ら♪また後でな!」

瑛斗「あ、うん!」




南くんは滝くんの肩に腕を回してもたれかかりながら歩いて行く。

二人の背中を見送りながらそっと溜息を吐いて、俺も自分の持ち場に行こうと背を向けた。


 南「あ、やべ!忘れてた!三浦!!」


南くんのよく通る声が廊下中に響き渡る。


瑛斗「え?っわ、っと!?」


振り向くと、空中を飛んでくる何かが見えた。

それが缶ジュースだと気付いた時には既に遅く・・・・・・取れない!と目を瞑った。


 南「それ!三浦の分の報酬な!」


確かに取れないと思ったのに、構えた手の中におしるこ缶が収まっていた。

まだほんのりあったかい。


瑛斗「ありがとう!」


南くんは人懐こい笑みを浮かべ、手を振ってくれた。おしるこ缶を握り締めて俺も手を振り返す。


三浦瑛斗、17歳。

入学してから1年と7ヶ月経った今日、初めてクラスメイトと遊ぶことが出来ました。


つづく。

bottom of page