Far-off Voice
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1.虹鯨の涙
雨上がりの海上に現れるという虹色のくじら。
父が幼い頃に出会ったという彼に僕も会ってみたくて、
来る日も来る日も、逆さに吊ったてるてる坊主に願いを込めた。
父はそんな僕を見ておかしそうに笑う。
「よく見てごらん?心を通わせるんだ」
僕はすっかり見慣れてしまった雨上がりの少し波立った海を、父の言うとおり注意深く見回した。
『やっぱり何もいないじゃないか』
そう言おうとして僕は空に架かる七色の虹に目を奪われた。
まるで海の中から空へ向かって手を伸ばすように架かる鮮やかな帯。
息をのむ僕の肩に父がそっと手を置いた。
「ほら、おでましだ」
虹の根元、海面から押し上げるように飛沫が上がる。
そして次の瞬間、巨大なそれは姿を現した。
虹色のくじら。
僕がずっと見たかった幻の…
優雅に空を泳いでいたくじらは、僕のいる岸の方へと進路を変えた。
「呼んでごらん」
父は楽しそうに僕の顔を覗き込む。
僕は波打ち際に立ち、思いっきり息を吸い込んで叫んだ。
くじらは声に応えるように僕の目の前まで来ると…
潮をひと吹き、空気を震わす鳴き声とともに再び海の中へ姿を消してしまった……
一瞬の出来事だった。
ぎゅっと握り締めた手の中の不思議な感触に気が付いて拳を広げる。
そこには、見たこともない色合いをした石のようなものが2つ乗っかっていた。
「きっとくじらさんからのプレゼントだね。」
父の言葉に、僕は嬉しくなって2つの石を大切に大切にポケットにしまった。
「虹鯨の涙」
僕は石をそう呼ぶことにした。
あのとき鯨は泣いているような気がしたから。
彼は雨上がりの空に誰を探しているのだろう?
…きっと大切な人なんだ。
僕も家族を大切にしよう。
ああ、次は幸せそうな彼らに会えるといいな。
雲間から差した光が海面に反射してキラキラと輝いている。
僕はいつまでもいつまでも鯨の消えていった海を見つめていた。