Far-off Voice
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3.ひとりぼっちの白キツネ
物心つく前から、僕はひとりぼっちだった。
おとうさんも、おかあさんも、頼りになるきょうだいもいない。
だけど、ちっとも寂しくはなかった。
だって、僕にとってそれが当たり前だったから。
春は桜が咲き誇り、夏は空に大きな入道雲、
秋には紅葉が美しいこの山で 景色を眺めたり、木の実を拾ったり、
僕だけの秘密基地を作ったりして・・
自由気ままに過ごす日々はそれなりに楽しかった。
それでもやっぱり憧れはあって。
ともだちと呼べるような相手がいたら・・
楽しい気持ちを誰かとはんぶんこすることが出来たなら いったいどんな気持ちだろう?
どんなおはなしをして過ごそう・・
そんなことを考えながら眠りに落ちる夜は、夢にまでワクワクが溢れてて、
僕のお気に入りの時間のひとつだった。
僕だけの秘密基地にあるものは
イスも、寝床も、食器も全て僕の分だけではなく、ほんとは2人分だった。
いつかともだちができたとき、真っ先に招待してあげられるように。
ここがぼくたちをつなぐ場所になるように。
でも、現実はそう上手く行かなくて・・・
"ともだち"どころか誰一人として僕とは口を利いてくれなかった。
理由はわかっていた。
真っ白な毛並み、一回り小さな身体。
限られた時間だけど人間に化けることが出来るおかしな力。
どうやら僕は他のキツネとは違うらしかった。
みんなは僕のことを"かわいそうな子"と呼ぶ。
だけどそんなことにももうなれっこで 別に悲しくなんかなかった。
結局、"僕だけの秘密基地"は ぼく"だけ"の秘密基地のまま、ゆるやかに季節を越えてゆく。
冬も近くなったある秋の日のこと。
その日は長い長い冬ごもりへ向けて、食料を求めて町まで降りてきていた。
沈みかけた夕日が1日の終わりを告げる丘の上、大きな樫の木が木陰をつくった静かな場所。
そこで僕は少しだけ休憩をしようと思って。
ふと、背後から聴こえてきた女の子の泣き声に、木の陰からそっと覗きこんだんだ・・