Far-off Voice
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9.文化祭、咲本くんのほんと(2)
-裏庭-
保健室に咲本くんの姿はなかった。
空き教室にも、駐輪場にも・・・
会いたくないから出てきて欲しくはないけど、彼を捕獲しないと教室に戻ることが出来ない・・・
小心者には優しくない世界だ・・・
僕は、少しだけ花を見て癒やされようと裏庭へ向かった。
「ははっ、美味いか?よしよし。」
僕は自分の目を疑った。
だけどどう見ても、裏庭の花壇の前で、楽しそうに笑う咲本くんがいて・・・
腕の中には、おはぎ。
笑えたんだ…なんて失礼なことを思ってしまう。
でも、今の咲本くんなら・・・
「あの・・・さ、咲本くん!」
「なっ・・・」
咲本くんは驚いた様子を見せ、すぐに視線を逸らした。
それもそうだ。
今は5限目の授業中で、裏庭なんて誰も来るはずないんだから。
僕は思い切って続ける。
「その・・・文化祭の話し合いで・・・先生が、呼んでます。」
「俺は、いい。」
「でも・・・・・・」
誰が見ても分かるほど一気に、咲本くんの表情が曇った。
なにか、教室に行きたくない理由でもあるのかな・・・?
純粋な疑問がわいてくる。
「ん?まだ欲しいのか?しゃーねーな。」
あれは猫用高級チーズ・・・!彼が手にしている袋を見て僕は悟った。
わざわざ持参してるなんて・・・咲本くん・・・キミは・・・
無類の猫好き!!
恐い人だと思っていたけど、猫好きに悪い人はいない理論からいくと彼も・・・
「おはぎと、仲良しなんですね・・・」
「あ?」
「あ、えっと・・・・・・」
「ああ、こいつか。おはぎ・・・たしかに。」
咲本くんは、膝の上で丸くなるおはぎを見つめて、吹き出した。
「ははっ、おはぎっていうのかおまえ!」
咲本くんって、目付きが恐いけど、笑うと目尻が下がってすごく優しい顔になるんだなぁ。
気付いてしまえばなんだかもう、恐くなかった。むしろ、失礼な態度をとってしまったことを反省した。
「咲本くん、昨日はすみませんでした。」
「・・・・・・?」
「余計なことしてしまって・・・・・・」
「ああ・・・いや、違う。俺の言い方が悪かった。」
「え?」
「だから、余計なことすんなって言ったのは・・・ああいうことすると、おまえまで巻き込まれるかもしんねーだろ?」
「はあ…」
「おまえは危ないから関わるなってこと!」
「あっ、そういう意味だったんですね!」
そっか・・・
迷惑がられてたんじゃなくて、心配してくれてたんだ・・・!
「別におまえの為じゃねーからな!おまえ、弱そうだから、目ぇつけられたら俺がめんどくせぇってだけだから!」
咲本くんは居心地悪そうに耳を触る。
ツンデレですか?なんて言ったら怒られそうだからやめておこう。
「ありがとうございます。」
「俺の方こそ、礼がまだだったな…昨日はさんきゅ、助かった。」
「いえ、ああいうやり方しか出来なくて申し訳ないです。」
「行くか。」
「え?」
「教室」
「でも、行きたくないんじゃ・・・?」
「クラスの雰囲気ぶち壊すって・・・」
僕に背を向けたまま、咲本くんは静かに呟いた。
「言われたんですか?」
「ああ。」
「誰に?」
「今のクラスじゃねーよ、1年のとき。」
「・・・・・・」
「ま、俺こんなんだしな。不良に絡まれてケンカとかしょっちゅうだったし、しゃーねーわ。」
「そんなことないです。仕方ないなんてことないです。」
「三浦・・・」
「僕、咲本くんのこと恐いって…関わりたくないって思ってました。」
「ああ。」
「でも、今は違います。咲本くんのこともっと知りたいって思います。文化祭だって、一緒にやりたいと思います!」
「・・・ありがとな。」
「いえ、はやく行きましょう!6限目も文化祭の話し合いなので!」
「おう。」
初めて、誰かと本音で話せた気がした。
不器用な彼が少しだけ、自分と重なって見えた。
咲本くんを連れて戻ると、教室は少しざわついたけど、
南くんがフォローしてくれたおかげで咲本くんが嫌な思いをすることはなかった。
丁度、文化祭の出し物候補が出揃った頃で、多数決の結果、うちのクラスはタピオカ喫茶に決定。
これから始まる文化祭週間、咲本くんがクラスに馴染むきっかけになればいいなと思った。
も、もちろん僕も・・・ね。